おもしろ建築倉庫

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抗うつ薬として医療用医薬品となった危険ドラッグ:ケタミン

ドラッグと医療用医薬品は縁遠いものと考えている方も多いと思います。

しかしながらいわゆるドラッグが医療用医薬品になることがあるのです。

その例としてケタミンが治療抵抗性うつ病に対する治療効果の治験を経て、医薬品として承認されたことを紹介します。

 

 

 治療から取り残されていた治療抵抗性うつ病

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うつ病抗うつ薬(SSRIなど)の開発によって治ることも多くなりました。しかしながら、治療抵抗性うつ病の患者は様々な薬を処方されたにもかかわらずそのどれもうまく効いていません。その患者には自殺を試みた人も多く、重篤精神疾患と言えます。

 

 治験の既に済んでいたケタミン

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話は変わりますが、医薬品開発のプロセスはざっくりと分けると有効成分の開発→臨床試験(いわゆる治験)→販売と言えます。

有効成分の開発も臨床試験年単位でかかり、そのうえ多くの有効成分はドロップアウトしますから、医薬品開発はコストの高い事業と言えます。

またそのため、今の患者に必要な薬をすぐに開発するのは難しいのです。

 

ただし、これら段階を飛ばせる薬がありました。

それこそがいわゆるドラッグの一つであるケタミンです。

※もちろん臨床試験と安全な用量用法の検討は行われました。

 

アンダーグラウンドうつ病に効くと知られていたケタミン

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ケタミンは薬をキメている人たちの界隈の中ではうつ病に効くということが既に知られていました。

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ケタミンうつ病から解放された人のトリップレポート(ドラッグの体験談)によると、抗うつ薬だけでなくいコカインやアンフェタミンなど様々なドラッグもキメていたにもかかわらず効かなかったうつ病を抱えていました。その人はある日ケタミンがうつに効くと聞き、半信半疑で試してみたところ、本当に効いたそうです。[1]

(参照元によると服用すると世界の全てが正しい感覚を覚え、内なる無意識の声がお前はうつを治す力を持っているとささやいたそうです。次の日起きたら心の暗闇が取り払われ、3-4年間で最高の日となったそうです。その効果は1日だけではなく、3週間続いたそうです。)

※「ketamine trip report」でぐぐるとそこらへんでキメたひとの話が読めてしまいます笑

 

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このように、既に存在する有効成分が実臨床で使われまくっていて、どういった中毒性と治療効果を発揮しどのような症状に効くかが既にわかっていたのです。(データとしてではありませんが)

ですのでケタミン抗うつ薬にするには後は治験でデータとして有効性を示し、安全性の高い用法用量を検討すればよかったのです。(それらの過程も大変だったとは思いますが)

 

 共感性を高めると知られていたMDMA

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またMDMAも現在自閉症に対して共感性を高める効果の薬として研究が進んでいます。MDMAも同じことが言え、どういった中毒性と治療効果を示すかが既にわかっていたのです。[2]

 

 実臨床で使われているケタミン

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そして現在、アメリカではSpravatoとしてケタミン点鼻薬が承認を受け実際に治療抵抗性のうつ病患者に対して医療用医薬品として用いられています。(飲み薬との併用が承認されています)[3]

依存性薬物ですので、乱用防止・他人への販売譲受の防止のため、病院で医療従事者の前で服薬するように指定されています。

維持期には1~2週間に1回の点鼻だけでよく、すぐに抗うつ効果を示します(投与後2日)。

 

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今回はケタミンが治療抵抗性うつ病の治療薬となったことを紹介しました。

もちろんだからと言って大麻などのドラッグの合法化を推進するわけではなく個人的には反対です。

今回は代わりとなる薬がなく、ケタミンの承認によって救える症状が重篤であったため承認によるリスクよりもベネフィットが大きく上回ると考えられたために病院での使用に限って承認されました。

危険ドラッグが医薬品となった興味深い例として読んでいただけたら幸いです。

 

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[1] A Powerful Depression Treatment Ketamine by DepressedLoser123, Erowid Experience Vault, https://erowid.org/experiences/exp.php?ID=113191

[2] Danforth AL, Grob CS, Struble C. Reduction in social anxiety after MDMA-assisted psychotherapy with autistic adults: a randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study. Psychopharmacology. (2018) 2018:9. doi: 10.1007/s00213-018-5010-9

[3] National Institute of Health, Label: SPRAVATO- esketamine hydrochloride solution, DailyMed, https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?setid=d81a6a79-a74a-44b7-822c-0dfa3036eaed